名だたる巨匠、名手が顔を揃えた2012年のカンヌ映画祭で2年連続の最高賞パルム・ドールを獲得したのは、痛ましくも端正な愛の物語だった。
『ファニーゲーム』『ピアニスト』と数々の作品を発表してきたミヒャエル・ハネケ監督。疑惑と不信。狂気。沈黙と暴力。その冷徹な世界観と豪腕で世界中の映画ファンを震撼させてきた名匠は、2009年、悪意に取り憑かれた村の悲劇を描いた『白いリボン』でカンヌを席巻。

その彼が次に見据えたのは、意外にも、ひと組の夫婦の静かな老境、その愛の行く末だった。

夫ジョルジュを演じるのは、1966年の世界的ヒット作『男と女』に主演したジャン=ルイ・トランティニャン。彼をイメージして執筆された脚本、その1シーン1シーンを、名優は、卓越した表現力でさらに印象づける。

妻アンヌには、戦後の広島を舞台にしたアラン・レネ監督の『二十四時間の情事』でヒロインを演じたエマニュエル・リヴァ。オーディションでアンヌ役を得た彼女は、往年の美貌に加え、年を重ねて磨かれた存在感で難役を見事に演じきった。ともにフランスを代表する名優、齢80を越えたふたりが見せるのは、熟成された男と女の人生そのものである。

さらに、彼らの娘エヴァ役にはハネケ作品『ピアニスト』でカンヌ映画祭女優賞を受賞したイザベル・ユペールが扮し、夫妻の愛弟子のピアニスト役には、ヨーロッパでその名を高める現代ピアニスト、アレクサンドル・タローが実名で登場。劇中音楽も担当している。

カンヌの栄冠に続き、ヨーロッパ映画賞では作品、監督、男優、女優、脚本、撮影の主要6部門にノミネート。そして米・アカデミー賞においても注目を集めること必至の、至高の愛の物語。

愛する者が死に臨む、その姿を見届けることは、はたして愛の終焉か。それとも幸福の完成なのか。名匠と最高のキャスト陣は、静かな熱を持って、究極の問いを投げかける。

パリの高級アパルトマンで悠々自適の老後を送るジョルジュとアンヌ。満ち足りた夫妻の日々は、ある日、妻の発病で暗転する。妻の願いを汲んで自宅へ連れ帰り、献身的に支える夫。その日々の営みを、名匠は丹念に追っていく。

人間誰しもが避けて通ることのできない「老い」と「死」。その淵に立つふたりの姿は、観る者に、来るべき日の存在を否応なく突きつける。

しかし、映し出されるのは決して衰えと滅びだけではない。ひとりの男とひとりの女がともに生きて来た道のりの確かさ、充実と尊厳、それゆえの気高さは、観客の胸にひたひたと迫る。